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二人は自転車をひきずつたまゝ近よつた。
「先代がぽつくり死にましてね。おかげでこんな所へ引つこむやうになつてしまつたんですが」
盛子は風呂場の入口で上はずつた声を出した。
宿の者はこういっただけで、その以上の説明を加えなかった。伊助の報告もそれで終った。
「それが、その、来ないわけがあるのさ」
その時、練吉はぐつと盃をつきつけた。
「さあ、知らん」
半之丞の話はそれだけです。しかしわたしは昨日きのうの午後、わたしの宿の主人や「な」の字さんと狭苦しい町を散歩する次手ついでに半之丞の話をしましたから、そのことをちょっとつけ加えましょう。もっともこの話に興味を持っていたのはわたしよりもむしろ「な」の字さんです。「な」の字さんはカメラをぶら下げたまま、老眼鏡ろうがんきょうをかけた宿の主人に熱心にこんなことを尋たずねていました。
「あのね、何ですよ――」
河原の端にある高い築堤の上で、白い割烹着かつぽうぎを着た女が、口に手をあてて何か叫んでいた。
房一は庄谷の後で時々目を開けていたが、間もなくすつかりつむつてしまつた。ゆるく尻をひつぱる読経の声、時々ふいに高くなり、途切れ、又ゆるやかにつゞくその倦だるい音は、それにつれて聞いている者に次々ととりとめもない考へを追ひかけさせ、立ちどまらせ、又流れさせた。
口を切つたものの房一は頭の中でとまどつていた。あんなに考へていた言葉が今急にどこかへ消えてしまひ、何を云ひ出したのか後をどう云つたものか判らなくなつてしまひさうに感じた。彼はかすかに汗ばみ、そのどちらかと云へば醜いむくれ上つた眉肉や厚い唇が力味を帯び紅ばんで来た。
「ね、お母あさん。これ、こんなに汚いでせう。もう少し……たいんですけど。……でせうねえ」